トクピシンとは

トクピシンは,英語およびモツ語と共に、現在パプアニューギニアで話されている3つの公用語のひとつです。19世紀後半に太平洋の諸地域でコプラやサトウキビのプランテーションが始まりましたが、労働者はメラネシア、マレーシア、そして中国などから集められたため、共通語(リングアフランカ)が意思疎通の手段として各地で発達しました。パプアニューギニア本島の東、ニューブリテン島に位置するラバウル周辺ではクアヌア語という地元の言語が話されていますが、やはり19世紀にプランテーションが展開されたのに伴い、クアヌア語が英語の影響を受けて発達したのがトクピシンとされています。現在では、パプアニューギニアの各地で話されるようになっており、英語、モツ語を公用語としている人々の多くがトクピシンも理解し、話すことができます。(オンラインブリタニカ百科事典 英語 を参照)

トクピシン翻訳のユニークな点

翻訳者にとって挑戦となるのは、その語彙数の少なさです。もともと仕事上のコミュニケーションを図るためだけの言語なので、細かいニュアンスを伝えることはたいへん難しいものとなります。例えば、kisim というトクピシンの単語は、取る、受け取る、獲得する、連れて(行く、来る)、理解する、などの意味があります。基本的にはうれしい(happy)を意味する amamas (あるいは hamamas) という言葉があります。i no amamas はうれしくない(unhappy)となりますが、文脈や状況によっては、不満(unsatisfied)、(気分などを)かき乱す(upset)、となる場合があります。Long もくせ者です。特にトクピシンから他の言語に訳すときは要注意です。トクピシンでは、英語の前置詞はすべて、long となります。ですから、kam long の場合、come from なのか、come to なのかを文脈や状況から判断する必要があります。どの言語もその言語が話される文化的な背景、人々の考え方や感じ方の影響を受けますし、それらの理解は翻訳をするときにたいへん有用な情報となりますが、トクピシンは語彙数そのものに限界があるために、そのような微妙なニュアンスを理解するためには、字面を追うだけでなく、文面の言葉の背後にどんな感情があるかを理解しなければなりません。弊舎代表はパプアニューギニアの人々との長い間の交わりを通してそのような貴重な理解を得ました。希少言語であり、翻訳案件の絶対数は多くないものの、その経験と理解をトクピシン翻訳に役立てたいと願っています。
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書き起こし(Transcription)

トクピシンの書き起こしの案件もそれほど多いとは思えませんが、これも現地の人との接触がないとたいへん難しいものとなり得ます。国中のかなり多くの人々がトクピシンを話していますが、書かれたトクピシンを見る機会はそれほど多くありません。800以上あるという土着の言語を話す人々が話すトクピシンは、発音、アクセントなどがその地元の言語の影響を受けることがよくあります。ですから、彼らがトクピシンを書くときには、自分たちが発音するとおりに表記する傾向があります。例えば、助け、助ける(英語 help)に相当するトクピシンは、helpim、あるいは、helvim、halvim などと綴られることがあります。種々の、様々な、に相当するトクピシンは通常、kainkain と綴られますが、ある人は、kaenkaen と書きました。おそらくその人自身がそのように発音しているものと思われます。〜してはいけない(Don't〜)は、トクピシンで No ken 〜 となりますが、ある人は、No gen と書きました。確かにその地方ではそのように発音しています。書き起こしの際には、現地での経験がたいへん貴重なものとなります。

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